極上の音楽と居心地があるジャズ喫茶「もっきりや」
オープンは1971年。金沢の中心 柿木畠で50余年の歴史を刻んできたジャズ喫茶&ライブハウス「もっきりや」。国内はもちろん、海外から訪れるミュージシャンやファンが絶えない店だ。
音を楽しむ懐かしくて新しい場所
柿木畠にある小さなジャズ喫茶&ライブハウス「もっきりや」は、大きな窓と赤い縁取りにマイクに向かう女性のシルエットの看板が目印。
オープンしたのは1971年、当時21歳の平賀さんが友人の手を借りてスタートさせた。「お金はなかったからね。内装も友人のツテに頼ったり、壁を自分たちで貼ったりしたんだよ」と、懐かしそうな表情を浮かべる。その後、何度か改装をしているが、当時のまま残っている場所も残っているという。
初めて訪れてもどこか懐かしさを感じる店内
店内の雰囲気をわかりやすく例えるなら、最近人気の「昭和レトロ喫茶」といったところ。ただ、絶対的に違うのが、店内にかかる音のボリューム。
店内に音楽を流す飲食店は少なくない。むしろ音楽が流れていない店の方が少ないかもしれない。ただし、その音量は小さめ。BGMとして「客の会話を邪魔しない」ことを前提に、店の雰囲気づくりの一環として流しているケースが多い。
反してジャズ喫茶は音楽が主役。こだわりの音響設備から流れる音楽を聞くための場所だ。つまり、ジャズ喫茶の音楽はBGMではないのだ。
そのため、ジャズ喫茶全盛期の昭和30~40年代には「会話禁止」という店もあったそうだが「音楽は気取ったらおしまい」がモットーのもっきりやでは、もちろん客同士や店主との会話もOK!
今では入手困難な音楽ファン垂涎の品も数多くそろうレコード棚
演者からオファーされる老舗の風格
レコードやCDからの音楽を聞くだけでなく、ライブが多いのももっきりやの魅力のひとつ。月平均20本ほどだというから、いつふらりと立ち寄ってもほとんどライブが開かれている。
ジャズだけでなくR&Bにカントリー、ジャパニーズポップ、朗読ライブなどジャンルは幅広い。訪れるアーティストは国内外を問わず、過去には山下洋輔や日野皓正など、音楽に詳しくない人でも知っているような有名ミュージシャンも多く訪れている。
それでいて地元で活動するミュージシャンのライブも開かれる門戸の広さ。それももっきりやの大きな魅力だ。
演者と客席がゆるやかにつながるライブ仕様の店内
パフォーマンスはもちろん、演者の表情や息遣いまで間近に感じられる
「世界のナベサダ」こと渡辺貞夫も訪れた
もっきりやの特徴は、ライブのほとんどがアーティスト側からのオファーだということ。
防音をはじめとした音響や照明など、設備面でいうなら、決してハイクオリティとはいえない環境だという。ライブ中に店の電話が鳴ることもあるという。
それでいて月20本以上のライブが開催されるのは、膝を突き合わせるほどの距離感で一流の音楽を浴びることができることに加えて、店主の平賀さんの人柄が大きいのだろう。
アーティストと一緒に(一番左が平賀さん)。心から楽しそうなこの表情!
「居心地」を提供する店主のこだわり
平賀さんのこだわりは「音楽は気取ったらおしまい」だけではない。
店のトレードマークのひとつ、通りに面した大きな窓もそのひとつ。防音や音響に影響するにもかかわらず、あえて通りから店内をのぞくことが見えるようにしたのは「なんか楽しそうだと思った人が、気軽に入ってこられるように」だという。
常連が「特等席」と呼ぶ窓際の席。居心地はもちろん抜群!
店の名物になっている「おいしいコーヒー」もこだわりのひとつ。「当時は『ジャズ喫茶のコーヒーはまずい』というのが定評だった。なら、コーヒーのうまいジャズ喫茶を作ろうと思った」のだそうだ。オープン当時からずっとコクテール堂のエイジング豆をていねいに淹れている。コーヒーと同じ理由で、生地からこねる自家製ピザもぜひ味わってほしい逸品だ。
「この店のおかげで刺激的で変化に富んだ毎日を過ごせている」という平賀さんの人柄こそが、アーティストや客を引き付けているのだろう。
最後のこだわりは「接客は必要最小限」。訪れた人が思い思いに過ごしてくれて、それを楽しんでくれていればいいと言いながら「だってそんなにお客さんに構っていたら、僕だって疲れちゃう」と冗談めかしていうけれど、その必要最低限がとても心地良い。
つまり、もっきりやとはそういう店だ。
取材日時 2022年11月4日
取材・文 小杉智美
店舗情報
店舗名 | もっきりや |
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住所 | 金沢市柿木畠3-6 |
電話番号 | 076-231-0096 |
営業時間 | 12:00~24:00 |
定休日 | 不定休 |