築80年、大工の工房兼住居をリノベーション

観光客をはじめ、多くの訪問客で賑わう金沢ひがし茶屋街。その奥、閑静な住宅街の中に築80年、大工職人の工房兼住居をリノベーションした寿司店がある。白いのれんと小さなメニュースタンドだけの楚々とした佇まいだが、通りに面した大きなガラス窓が目を引く。店内は、壁や柱など、一部に当時のままの姿を残しながら、落ち着いた色調のモダンな空間で、知らずに入れば、思わず財布の中身を心配してしまうような高級感が漂う。

カウンターを中心にしたすっきりと広い1階は、もともと職人の工房だった場所

店が最も賑わうランチタイムはカウンター席がおすすめ。次々と注文に応える前場久雄料理長の小気味いい手さばきが寿司の味わいが一層深まる上、季節の旬の素材や付近の見どころなど、調理の合間に交わされる会話も楽しめる。

地元の旬を存分に味わうなら「極み(4,800円)」。冬場なら、寒ブリやメスのズワイガニ・香箱がになど、その日その時期に一番おいしい地魚が堪能できる。

地魚を中心にした12貫にうなきゅうの手巻き、味噌汁がセットの「極み」

少食の人やランチは軽く食べたいなら握り8貫に手巻きと味噌汁がセットの「心鮮(2,200円)」もおすすめ

「海鮮丼(2,200円)」はご飯と海鮮が塗りの重箱に別盛りになって提供される。海鮮をご飯の上に乗せてもよし、海鮮をつまみに昼酒を楽しみつつ、ご飯で締めるのもいい。

一船のシャリは白山・吉野谷で育ったコシヒカリ100%のコシヒカリに香りがよく酸味が立ちすぎない専用の酢を使用している。シャリだけで食べても抜群の味わいだ。

目にも華やかで可愛らしい手まり寿司(2,500円)は、前日までの予約限定(当日対応できる場合もあるのでお問い合わせを)

夜は個室で寿司割烹コースをゆっくり堪能

夜は、料亭でも修行したという前場料理長が存分に腕を振るうコース料理(8,800円、12,000円)がメイン。突き出しに始まり、お造り、揚げ物、焼き物など、充実のラインナップはもちろん地元の食材を中心としたもの。食事はその日おすすめの握りに味噌汁、デザートまでゆっくりと味わえる。

個室は2室で、茶屋街らしい朱塗りの壁の部屋とかつては高貴な人々や富豪しか使えなかったといわれる「加賀群青」と呼ばれる深い青の壁の部屋。どちらも古都金沢らしいしつらいだ。

地魚だけでなく、加賀野菜など旬の地物素材をふんだんに使ったコース。もちろんカウンターでも食べられる。

2つの個室はふすまを外せば広い一室に。16人までの宴会が可能。

ところで、一船には1階、2階それぞれに茶釜が置かれている。煎茶と加賀棒茶、黒豆茶をレギュラーに常時4～5種類用意されている茶は、客が好みの茶を好きなタイミングで好きなだけ飲めるようにセルフ方式だ。茶釜から茶杓でお湯を掬うスタイルは、金沢が全国でも屈指の茶の湯が盛んな土地であることが反映されている上、日常ではなかなか触れることのない体験が好評だそうだ。

湯呑もさまざまなタイプが揃っているため、好きなものをチョイスできる。

朝食に寿司を食べる至福と料理長の思い

ランチ、ディナーとさまざまに楽しめる一船は、実は朝の営業も行っている。イチオシは金沢の地野菜と近海の魚介を盛り込んだ「朝膳(2,200円)」。ほかに「朝から刺盛定食(2,750円)」や卵の味が濃く、箸で黄身が摘める「能登鶏有精卵のTKG(980円)」がそろう。予約制で土日曜、祝日の限定ではあるが、7～9時の営業だから、早めに朝食をとってエネルギッシュに一日行動したい人にも、朝からゆっくりと食事を楽しみたい人にもぴったり。(2023年12月現在は休止中。詳細は要確認)

彩りも盛り付けも美しいおかずたちに目移りしそう。これにコシヒカリ100％の吉野米のご飯、味噌汁がつく。

金沢をはじめ、北陸の素材を自在に調理する前場料理長だが、生まれも育ちも東京。北陸生まれのお母様の縁で金沢に移住したのだそう。

金沢の印象を聞くと「人がおっとりしたまち。山海里の地元食材が豊富だから腕の振るい甲斐がある」という。取材中も手を止めることなく、丁寧な手付きで繊細な下ごしらえをする姿が印象的だった。

寿司を握る前場料理長の鮮やかな手さばきについ見とれてしまう。

Instagram https://www.instagram.com/issen_kanazawa/

※価格はすべて税込み

取材日時　2023年11月28日

取材・文　小杉智美

店舗情報

店舗名	寿司 一船
住所	金沢市観音町3-1-14
電話番号	076-225-0434
営業時間	7:00～10:00(9:30LO土日曜、祝日限定、要予約※2023.12現在休止中、詳細要確認)、11:00～15:00(14:30LO)、17:00～22:00(21:30LO火～木曜予約のみ営業)
定休日	月曜、月1～2回火曜