日本人のソウルフード、優しく握られたおにぎりの専門店「みつや」
「釜炊きおにぎり みつや」があるのは本多町交差点のすぐそば。金沢を代表するコンサートホール金沢歌劇座や鈴木大拙館にも近く、文化の香りも高い一角だ。
家族でつくる、日本人のソウルフード「おにぎり」
「釜炊きおにぎり みつや」は、10席ほどのカウンターとテーブル席がひとつのこぢんまりとした店。カウンターには、ガラスのネタケースが置かれていて、一見するとすし屋のようにも見える。
店主の大野修さんは、長く金沢の有名料亭で総支配人を務めた人物で、味はもちろん、食材の目利きも確か。みつやオープンの際には、東京の老舗手握りおにぎり店に修行に出向くなど、研究心も豊かな人物。
右が店主で父の修さん、左が息子の哲(あきら)さん。
そんなみつやのおにぎりは、持つとふわりと柔らかく、ほおばるとほろりと口の中で解ける絶妙な握り具合。注文を受けてから一つずつ握るため、温かいまま食べられるのも魅力だ。
使っているのは、いくつも試食した中から厳選した地元石川県内でも自然豊かで水のきれいな能登半島の先端・珠洲市で育った米。これを店内の羽釜で毎日、丁寧に釜炊きしている。米のコンディションや天候、気温、湿度などを考慮しながら、少し固めに炊いたご飯に巻くのは、香りが良い有明産ののり。
「一口大に切ってある巻き寿司とは違って、かぶりついて食べるおにぎりののりは、切れも重要」なのだと、歯切れの良い厚みののりを選んだのだという。
確かに、みつやのおにぎりは、かじると口の中で解けるほど柔らかいのに、最後の一口まで崩れることなく食べられる。その食感も心地よくて、ついもう一つ、と手が伸びるほど。
ご飯にたっぷりと具を挟み込んだら、優しくなでるように握る。その優しさが解けるような口当たりになる。
具はレギュラーだけでも40種! お徳なセットメニューも選べる。
みつやのおにぎりは、具のバリエーションが豊富。レギュラーメニューだけでも約40種類。梅(190円)やこんぶ佃煮(190円)、ツナマヨ(190円)、鮭(210円)などの定番からチャンジャ(250円)、焼肉(210円)といった変わり種、イカの黒づくり(250円)、ふぐぬか(400円)、能登牛の時雨煮(300円)などの地元石川県の味まで、味わいもさまざま。数量限定で「おこげ(140円)」があるのは、釜炊きだからこそ。確実にゲットするには、早めに訪問するのがおすすめ。
おにぎり以外でも釜炊きご飯を味わうなら、おすすめは「まぐろのづけ丼(550円)」。ご飯が見えないほどびっしりと盛られたまぐろの漬けたれはきりっとした味わい。味噌汁と漬け物がついて、ご飯は大盛りもチョイス可能(大盛り無料)。こちらも1日10食の数量限定なので、食べられるかどうかは時の運だ。
人気の具材。左上から、いくら、こんぶ佃煮、焼肉、鮭、青じそしらす、梅。梅は、店主が長年手仕込みしている大野家のおふくろの味だ。
「まぐろのづけ丼」釜炊きご飯の上にびっしりと敷き詰められたヅケの照りが食欲を刺激する!
単品のおにぎりはもちろんのこと、店内で食べるならセットメニューもおすすめ。
「日替わりセット(700円)」は、日替わりおにぎり2個、本日のおかず、味噌汁、自家製の漬物のセットに、塩玉子、ミニサラダ、ミニ黒みつかんてんからひとつ、サイドのおかずを選べるボリュームもたっぷりのセットだ。
日替わりのほか、好きなおにぎりを2つ選ぶ「お好みセット(750円)」もあるので、食べたい具材が決まっているならこっちにするのもいい。
汁物は日替わりの味噌汁が基本で、豚汁(+50円)やしじみ汁(+100円)、野菜スープ(+150円)への変更も可能だから、その日の気分や好みでチョイスできる。
日替わりセットのおにぎりやおかずは半月に一度のペースで発行される『おにぎりぐらし』でチェックできる。『おにぎりぐらし』は、店内に置かれているほか、ツイッター(onigiri_mitsuya)でも更新される。
セットのおかずは、おでんや茶碗蒸し、治部煮などの和食だけでなく、シチューやグラタン、串カツやブタの生姜焼きといったボリュームたっぷりのものも。
高校生もツエーゲン金沢もみんな「みつや」が応援する
みつやの店内で目立つのが赤い色。出入り口や壁に飾られたのぼり旗やTシャツの色だが、これは地元のサッカーチーム「ツエーゲン金沢」のものだ。ツエーゲン金沢は、1956年に誕生した「金沢サッカーチーム」を前身とし、Jリーグ入りを果たしたのは2009年、7年でJ2に昇格。現在は、年間12万人を動員する人気チームのひとつとなっている。
そんなツエーゲン金沢とみつやが出会ったのは、2011年にみつやがオープンしてから間もない頃。スポンサーを募ってチーム職員がみつやを訪れたそうだ。
そこから縁がつながり、現在ではホームゲームの風物詩となっている「ツエーゲン茶屋街」に出店しているだけでなく、哲さんはサポーターのコールリーダーを務めるまでになっている。
「ツエーゲン茶屋街では、相手チームのご当地メニューを取り入れたお弁当も販売しています。『敵を食う』イメージですね」と哲さんは楽しげに話す。
ツエーゲン金沢のホームゲーム名物「ツエーゲン茶屋街」。みつやでも、茶屋街限定の弁当を販売している。
店内にもツエーゲン金沢応援グッズがいっぱい。胸におにぎりが描かれたみつや仕様のユニフォームも。
哲さんがツエーゲン金沢を応援する一方、父の修さんが応援するのは近隣の高校に通う学生だ。
みつやの周辺は高校が多い。夕方になると、1日の授業や部活動でお腹を減らした学生が多く行き交うのだ。そんな高校生のために、みつやには学生割引が存在する。学生は、おにぎり全品20円引きなのだ。彼らは、高校在学中に足繁く通うだけでなく、卒業してからも「みつやのおにぎりが食べたくなった」と顔を出してくれるのだそうだ。中には、結婚や子どもが生まれたと、家族を伴って訪れる一もいるほどなのだとか。
「この店を出すときに、本当にたくさんの人にお世話になった。少しでもその恩返しができればという気持ちで高校生やお客様と接しています」と修さんは言う。
美味しいおにぎりを食べたい人も、元気が出なくて誰かに応援してもらいたい気持ちの人も、「釜炊きおにぎり みつや」に行けばきっと、身も心もほっこりできるはずだ。
明るく開放的な店内は、夕方になると高校生が多く訪れる。「部活がしんどかった」「好きな人ができた」なんて報告されることもあるとか。
※価格はすべて税込
取材日時2020年10月16日
取材・文 小杉智美
店舗情報
店舗名 | 釜炊きおにぎり みつや |
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住所 | 金沢市本多町3-10-15 押野谷ビル1F |
電話番号 | 076-205-7827 |
営業時間 | 11:00~18:00 |
定休日 | 不定休 |