気を張らない会席料理と金沢の温故知新が味わえる「三統」

「三統」は、卯辰山の中腹にある食事処。眼下に浅野川、川を挟んで向かい側には金沢城と兼六園、ひがし茶屋街までは徒歩5分というロケーションも素晴らしい。

 

茶懐石の名店がカジュアルにリニューアル

 

かつては、茶懐石の名店として金沢の茶人粋人に愛された三統。創業は戦後まもなく。はじめは金沢市の鳴和にあったのだとか。

茶懐石は細かい作法や決まりが多いこともあって「いつかは訪れたい」と憧れる金沢グルメも少なくなかったが、10年ほど前、先代が亡くなったときに惜しまれながら閉店した。

その三統が再開したのは3年前。先代のふたりの娘さんたちによって。

 

書家の手によるという凜とした墨跡の看板と静かなたたずまいは以前と変わらない。

 

「店で使っていた食器や道具類を整理したのがきっかけです。私たちにとっては子どものころから見てなじんでいたものばかりで懐かしくもあり、大切に使われていた道具類が愛おしくなって。処分も考えていたのですが、自分たちがやれる範囲で店を再開できないかと考えたんです」。

「やれる範囲」というのは、2人ともプロの料理人としての修行や経験はないものの、妹さんには先代を手伝って厨房に立っていたことがあり、お姉さんは栄養士の資格を持っていた。

「以前のような本格的な懐石はお出しできないけれど、その代わり、もっと気軽に足を運んでいただける店づくりをしようと思った」のが新生三統がオープンした経緯だ。

 

その言葉通り、続き間はテーブルや庭を堪能できるように窓に向かって文机を配置してカジュアルな空間とし、奥の2室はプライベートな時間を満喫できるよう個室として残している。

営業時間が17時までなのも、一家を切り盛りする主婦であり母でもあるお二人が、無理をしないで「やれる範囲」として決めたものだ。

 

 

日差しよけに下げられた御簾(みす)は、窓の幅に合わせた特注品。

 

壁の藤色は初代が好きだった色なのだとか。テーブルのセッティングで和の風情をカジュアルに味わえる。

 

 

やれる範囲だからこその丁寧な仕事が人気の秘密

 

「やれる範囲」とは言うものの、出された料理はどれも美しく、一つひとつに手間暇がかけられているのが一目でわかる。

「目を見張るような特別な料理は作れない」と言うが、昼会席膳(2,500)は先代から受け継がれているだろう繊細さに溢れている。

しっとりとつややかな昆布締めは、昆布の旨味をしっかりと移しながらも魚本来の甘みも感じさせ、加賀料理として、また伝統的な家庭料理としても知られるナスのオランダ煮は、切り口がたっているのに、よく味がしみている上、口の中で柔らかく溶ける。

一番のこだわりは、旬の素材を使うことなのだそうだ。「産地には特にこだわってはいないけれど、厨房で父が作っていた料理、食卓に母が出してくれていた料理を作ることが多いせいか、自然に地物が多くなりますね」。

 

 

丁寧な仕事ぶりを感じる料理はもちろん、大切に受け継がれてきた器も楽しみたい。

 

昼会席膳は予約が必要だが、新生三統には予約不要のカフェメニューも用意されている。

フレンチトースト(500)、カフェ風サンド(700)などの軽食やパウンドケーキ(300)、季節変わりの和スイーツだ。

若い人や観光で金沢を訪れる外国人にも気軽に立ち寄ってもらいたいという思いからだ。

夏に向かうこの季節は、抹茶パフェ(500)と抹茶ぜんざい(500)が提供されていた。

カフェメニューを作るのはお姉さん。予約不要で気軽に食べられるメニューとはいえ、こちらもしっかりと手がかけられている。

あんこや白玉はもちろん、ケーキやパンに至るまで、すべて自家製なのだそうだ。

お二人の「やれる範囲」の広さとこまやかさに、リニューアルから3年で人気店となった理由がうなずける。

 

 

あんこも白玉も自家製の抹茶パフェ。ドリンク(400円~)は一緒に頼むと100円引き。

 

お菓子付きの抹茶(600)。季節ごとに変わるお菓子はもちろん自家製。つややかに炊き上げられたあんも、ほんのり色づく白玉もかわいらしい。

 

 

季節感は衣替えするしつらいにも

 

三統では、建具の衣替えも行う。6月はもう夏のしつらい。風を通す涼しげな簀戸(すど)や窓際で柔らかく日差しを遮る御簾(みす)をはじめ、床の間にかけられた季節感たっぷりの掛け軸や置物は、どれも先代、先々代から大切に受け継がれたものだ。

「これらを処分するのが忍びなくて、店を再開したようなもの」と話してくれたが、確かに季節によって建具まで替えるところは最近では珍しい。

床の間に彩りを添える花は、以前は女将として店を切り盛りしていたお母様が毎日、整えているのだそう。

 

 

簀戸(すど)は夏の建具。空間を隔てながら、風や気配を通す、日本ならではの優しいしつらいだ。

 

受け継いだのは建具だけではない。食器類もほとんどが以前から使われていたものだという。蓋のついた薄手の唐津椀や蓋裏にまで蒔絵が施された塗腕などの繊細な器の数々は、今はなかなかお目にかかれない味わい深いものばかり。

美しく整えられた庭、眼下に広がる金沢の風景、季節を感じるしつらいに丁寧に作られた美味しい料理。そのすべてがそろう三統。以前の様子を知っている人も知らなかった人も、是非足を運んで堪能してほしい。

 

 

 

※価格はすべて税別

 

取材日時2019613

 

取材・文 小杉智美

店舗情報

店舗名 三統
住所 金沢市東御影町20
電話番号 076-252-3374
営業時間 10:00~17:00
定休日 不定休