東山の町家で味わう滋味深い「豆月」の豆スイーツ

ひがし茶屋街から5分ほど歩いた住宅街の中にある「豆月」は、豆をテーマにした和のカフェ。黒豆に大豆、ひよこ豆や金時豆など、ていねいに炊き上げられた豆はどれも滋味深くやさしい味わい。築85年の町家を改修した落ち着いた佇まいは、2017年に金沢都市美文化賞を受賞している。

「ただいま」と入りたくなる佇まい

「豆月」があるのは、ひがし茶屋街近くの住宅街。大通りから少し奥まった路地に面した場所だ。

 築85年の町家を改修した店は周囲に溶け込み、看板はシンプルで控えめ。あらかじめここがカフェだと知らなければ、気づかずに通り過ぎてしまいそうになる。

格子の引き戸を開けて「ただいま!」と言いたくなるような、懐かしくてあたたかな雰囲気が漂っている。

 

正しく「実家のような安心感」が漂うあたたかな雰囲気。

 

 

店主の北出美由紀さんは東京生まれで夫は神奈川県生まれ。そんな美由紀さんが金沢でカフェを開くことになったのは「昔ながらの家での暮らしをしたかったため」なのだそうだ。東京のマンション暮らしを経て、金沢に移住する前は夫の実家に近い神奈川県で賃貸の日本家屋に住んでいたのがきっかけ。

理想の住まいを探して、金沢と現在の町家に縁がつながったのだという。

それを機会に、それまで友人に振る舞ったり、イベントなどでスポット的に出店していたカフェを本格的に始めたのが「豆月」だ。

床の間や縁側のある落ち着いた席。雪見障子の向こうに見える庭からは柔らかい日差しが差し込む。

 

 

 

お手本は、小さい頃に食べていた「おばあちゃんの味」

「豆月」は「豆をテーマにした」カフェ。厳選されたメニューは、もちろんどれも「豆」や、豆が原料の「豆腐」を使っている。

中でも店の原点といえるメニューが「黒豆かん(700)」。

つややかな黒豆と寒天の透明感のある白のコントラストが美しい。

 

一般的に、豆かんといえば赤えんどう豆が使われていることが多いが、この黒豆こそが豆月のはじまりの一品だ。

幼い頃、祖父母と一緒に北海道で暮らした美由紀さんは、祖母の作る料理が好きだったという。中でも好きだったのが少し硬めに、歯ごたえを残した黒豆煮。東京に戻ってからも、正月前になると届けられた思い出の味でもある。

 

 

「四色まめしるこ(750)」はその名の通り、4種類の豆のお汁粉。豆の大きさやもともとの硬さで煮上がる時間も違うからと、1種類ずつ別々に炊き上げているという。一番時間のかかるもので3日間というから、大変に手がかかっている。

尋ねると、「豆を浸水させるところからの3日ですが、豆のスピードに添わせての作業ですので、ずっと付きっきりではないんですよ」とこともなげに微笑む。

提供は「秋、深まる頃から、翌年、夏のはじまりまで」とメニューに書かれた言葉選びに、美由紀さんの手仕事のていねいさがうかがえる。

香ばしく焼かれた餅は口当たりとのびのいい杵つき。

 

 

四色まめしるこにかわって「夏のはじまりから、秋のはじまりまで」の提供が「冷製ぜんざい(750)」。

北海道小豆と、注文を受けてから茹でる白玉はもっちりとして、つるんとした口当たりが気持ちいい。

ひとさじ添えられているのは、自家製の豆腐アイス。

 

 

「軽い食事になるものを」という客の要望から生まれたのが「豆スープ(850)」。豆をメインに季節の食材を合わせ、週替りで提供される。

ポタージュに仕立てたり、ポトフだったり、さまざまに豆の風味を味わうことができる。

スープは 金曜日ごとに更新される。日替わりの小さなご飯がつくから軽めのランチにもぴったり。

 

 

プリンとシフォンケーキには、絹ごし豆腐がたっぷり。豆腐は、石川県産のエンレイ大豆と能登の天然にがりだけで作られた金沢の豆腐店のもの。豆乳よりも豆の風味が深く、もっちりとした食感に仕上がるのが特徴だ。

豆腐シフォン(1450)は、黒豆のほか、季節のフルーツを練り込んだものも。

 

 

もっちり豆腐プリン(500)は、なめらかな食感に自家製ソースがマリアージュ。

 

 

メニューはどれもドリンクと一緒に頼むことで50円引きになる。

ハンドドリップのコーヒーや抹茶、自家製のジンジャーエールなどもいいけれど、一番のおすすめは加賀棒茶(450)。「金沢の棒茶は香り高くて味わい深く、茶店によって焙煎が違うのが楽しくて」と、4つの茶舗の棒茶を提供している。

贔屓の茶舗のものを選ぶもよし、新たな出会いを楽しむのもいい。

風味も色合いもひとつずつ違う棒茶の味わいを楽しめる。

 

 

カフェでの時間を通して町家暮らしの魅力も伝えたい

実は美由紀さんの夫・健展さんは一級建築士。この町家の改修も2人で相談し、健展さんが設計した。

町家の魅力について、美由紀さんに聞いてみると「ほの暗さと美しい光」だという。

「古い家には、窓がない部屋があることも少なくない。明かりを灯さなければ、隣室や廊下越しの光しか届かないけれど、例えば、夏場はひんやりと涼しかったり、障子や戸の隙間から差し込む光が独特の雰囲気をかもしていたり。そんな豊かな表情があるのが町家の魅力だと話してくれた。

「豆月」は、そんな町家の魅力も感じながら過ごしすことができる店だ。

通り抜ける風も差し込む光がつくる陰影も、すべてが唯一、すべてが魅力だという。

 

 

Instagram  https://www.instagram.com/mamezuki_kanazawa/

 

 

 

 

 

※価格はすべて税込み

 

取材日時 202327

 

取材・文 小杉智美

 

店舗情報

店舗名 豆月
住所 金沢市東山2-3-21
電話番号 076-256-0465
営業時間 11:00~18:00
定休日 水・木曜