鮨×酒と茶×陶芸体験 金沢の粋を感じさせる「Labo白菊」

金沢の繁華街・片町とにし茶屋街の間に位置する犀川沿いの街・白菊町(しらぎくちょう)。この住宅街に隠れ家のように存在するユニークな複合施設「Labo白菊」。ここには鮨屋、バー、陶芸教室、工芸に関する企画などを手掛けるwonderspace(ワンダースペース)の事務所の4つが併設されている。Labo(ラボ)は実験室を意味しており、何やら面白いことがありそうだ。

 

ひと手間かけた握りずしが逸品、地元民から愛される名店「鮨 くら竹」

Labo白菊」は、2019年4月にオープンした。「鮨 くら竹」はここに来る前は片町で営業しており、ちょうど3周年を迎えた。店主の倉橋晃規さんが一人で寿司を握っている。

 

席はカウンター10席、個室が7席。一人で切り盛りするにはちょうどいい席数だ。

 

よく通る声で快活に話す、店主の倉橋晃規さん。手際よく寿司を握る姿から技術の高さがうかがえる。33歳という若さで自分の店を持った。

 

地元の方に気軽に来ていただけるお寿司屋さんでありたいという倉橋さん。

「ちょっと手の込んだことをして、普通のお寿司屋さんでは食べられないものを出すようにしています」例えば、イカの握りはイカを薄く3枚におろして間に大葉をはさんで食べやすく細切りにしてあり、甘エビは醤油で漬け込んだものがのっている。

おまかせコースの一品料理も、ブリなら大根おろしとワサビを合えて柚子を振ったものや白子ならシャリと混ぜてポン酢でお茶漬け感覚で食べるものなど、どれも手が込んでいる。

それでいて、ランチが2,400円からとリーズナブルなところが人気でいつも常連さんで賑わっている。

 

握りずしはすべて味付け済みで、そのまま口に入れられる。まな板皿は九谷焼陶芸作家・川崎知美さんの作品。

 

常連さんが足繁く通う理由はもう1つある。それは、「お客さん11人に対応しているところ。私の好みをわかって下さっているというので来ている。何も言わなくてもこの人はこうやなって僕も分かっているのでやりやすい。お互いがいい空気でいられる。料理やお酒の好み、料理を出すペースなど、形にはできないですけど、ものすごく大事にしたいことです」

金沢のお寿司屋さんというと、地元で獲れた鮮魚や地酒を使っているイメージがあるが、倉橋さんは鮮魚もお酒も仕入れ先には全くこだわっていないという。「地元の人は石川のお酒はどこでも飲める。僕はあえてこの辺りでは誰も飲んだことのないような県外のお酒ばかり仕入れています。だから飽きられない。今日は何があるだろうと楽しみに来ていただける。鮮魚にしても、例えばカニを北海道から取り寄せ、どこよりも早くカニを出していると思います。」常連さんを喜ばせたい、すべてはその一心から。ちょうど取材日が3周年記念の日で、常連さんがお祝いを持ってきて下さったところに遭遇した。自分のことのように嬉しそうな常連さんの姿に、まさに「相思相愛」だと感じた。これからも変わらず地元の方に愛される名店として進化し続けていくことだろう。

 

「鮨 くら竹」と「Bar 露草」はついたてを挟んで同じ空間にあるので、2軒続けて楽しむことができる。

 

 

種類豊富なお茶カクテルとシメパフェが楽しめる「Bar 露草(つゆくさ)」

Bar 露草」は金沢の食文化の象徴である「酒と茶」がコンセプトのバー。

店主はソムリエの資格を持つ尾島健太さん。時々女将としてタレントのMEGUMIさんがお店に立つこともある。

店名の「露草」は「早朝のつめたい朝露を含んで咲き、わずかな時間で萎んでしまう露草。そんな露草のように日常から解放されたわずかな時間を上質なお酒と共にたのしんでいただき、また明日からの活力にして頂ければ」という願いを込めてMEGUMIさんが名付けた。

 

店主の尾島健太さんと時々女将のMEGUMIさん。お二人の笑顔が素敵ないいお写真。

 

こちらのバーでは、煎茶、ほうじ茶などを使ったオリジナルのお茶カクテルが楽しめる。「クラフト煎茶ジントニック」「大人の加賀棒茶ラテ」「抹茶香る日本酒カクテル」などとにかく種類が豊富だ。桜や小豆、栗など珍しい和のリキュールを使ったカクテルも楽しめる。ノンアルコールの日本茶や御茶菓子セットもあるので、夜カフェとしても利用できる。

 

 

煎茶のカクテル。ベースはジンで煎茶にマスカットのリキュールを加え、仕上げに抹茶のリキュールを数滴。グリーンの美しいカクテルだ。

 

お酒を飲んだ後のシメパフェも人気。抹茶パフェや季節のフルーツを使ったパフェはどれも程良い大きさで甘さも控えめ。お酒との相性も抜群だ。

 

露草オリジナル抹茶パフェ(800円)。1番下の抹茶のカクテルのゼリー(ノンアルコール)とさっぱりとした抹茶シャーベットが美味しい。

 

バーというとちょっと敷居が高いと感じる方もいるかもしれないが、店主の尾島さんはこちらが求めるものをスッと差し出してくれるようなスマートさもお持ちでありながら、笑顔で気さくに接して下さるので気を張らずくつろぐことができる。チャージも1,000円とリーズナブルなのもうれしい。

 

 

バーのシメにはもれなく抹茶がサービスで付いてくる。カウンターの中にある茶道具で、尾島さんが一人ひとりに心を込めてお茶を点ててくれる。

 

尾島さんは海外に住んでいた経験もあるので、外国人の方も大歓迎だそうだ。

「お寿司屋さんや陶芸と合わせて、気軽に楽しんでいただきたいですね」。土日祝日は昼間もカフェとして営業しており(昼はチャージなし)、陶芸をしながらお酒やお茶を楽しむこともできるという。露草オリジナルカクテルをぜひ味わってみてほしい。

 

 

 

色の変化に驚き!九谷焼体験ができる陶芸工房「いろどりや」

陶芸工房「いろどりや」は、九谷焼の陶芸作家・河村澄香さんの工房兼陶芸教室だ。

九谷焼は金沢の伝統工芸で、九谷五彩(くたにごさい)と呼ばれる5色と中間色(ピンク、水色など)の絵具を使った色彩豊かな陶磁器だ。絵具を厚くのせるように塗るのが特長で触るとぷくっとしている。

体験は、粘土の塊から好きな形を作る「手びねり」や「紐作り」、カップや茶碗などが作れる「ロクロ」、器に色を塗る「絵付け」、印刷された絵柄をシールのように器に貼って転写技法で製作する「九谷転写シート」がある。どれも15分から1時間弱でできるものばかりだ。

また、陶芸教室も開講している。こちらの教室の特長は、「水・木・土曜の10:0016:00の開講している間、フリーに来ていただけるところです。集中的にしたい方は1日で、少しずつ進めたい方は午前中だけ通われたりと、自分の生活スタイルに合わせて通うことができます」。

体験や教室では、河村さんが優しく丁寧に教えて下さるので安心して思い思いの作品を作ることができる。

 

陶芸作家の河村澄香さん。河村さんの作品は中間色を使った優しい雰囲気のものやポップで可愛らしいものが多い。

 

 

工房の中の様子。奥に並んでいるのは、電動ロクロ。

 

陶芸の面白さについて「九谷焼の絵付けの絵具は塗っている時と焼き上がった時の色が全然違う。こんな発色かなと想像しながら色を塗り、焼き上がってみると想像以上の色になったり、また逆もあり、それが面白い点だと思う」と河村さん。河村さんは絵付けが得意な先生なので、いろいろ相談もできる。

 

 

九谷五彩の絵具。焼き上げると、左のマスタード色は「黄色」に、右の灰色は「青(実際は緑)」に変化する。

 

「モノづくりが好きな方はぜひ気軽に来てみてください。見学で教室の雰囲気を見るだけでも大丈夫ですよ」と河村さん。1つ作ってみて、「次はこんなのを作ってみたい」とリピーターになる方も多いという。

現在、秋・冬の陶芸体験を企画中。小さい子にも興味を持ってほしいとお花や動物のモチーフを使った作品作りをするという。もちろん、大人も大歓迎だ。寒い冬こそ暖かい工房でじっくりと、こっとりと陶芸に取り組んでみるのはいかがだろう。

 

 

秋・冬の陶芸体験で作る作品。「ぽかぽかスープカップ&スプーン」と「ころころ迎春飾り」。こちらは河村さんが作られたもので、優しい色使いに癒される。

 

 

 

Labo白菊でできること「コラボ×学び×ビジネス」

オリジナリティのある魅力的なお店が集まった「Labo白菊」だが、どのような経緯で一緒にやることになったのか。

Labo白菊を管理している、三栄工業株式会社 代表取締役・川崎知美さんにこの施設の生い立ちや将来構想について伺った。川崎さんは、ご自身も陶芸作家であり、若手作家の作品を販売している「wonderspace金沢駅」の運営など工芸に関する様々な企画に携わっている。

Labo白菊は、川崎さんが白菊町に物件を借りたことから始まった。元染色工房の5つの家が繋がった細長い建物だ。そこへ以前から知り合いだった「鮨 くら竹」の倉橋さんとMEGUMIさんもここでお店をやりたいと言い、一緒にやることになった。3人とも同じ1981年生まれということもあり、この3人なら面白いことができそうだと思ったという。自身の工房を作りたいと思っていた河村さんと尾島さんを誘い、3つのお店を始めることになった。川崎さんの話しぶりから、5人が互いに才能を認め合い、強い信頼関係で結ばれていることがわかる。

お酒を呑みながら陶芸など、それぞれのお店の「コラボ」で生まれる金沢体験は、Labo白菊ならではの魅力だ。

しかし川崎さんにはあと2つ構想があるという。1つ目は「陶芸作家の学びが日々ダイレクトに起きる空間づくり」だ。「器は使うという用途がある美術なので、料理人と実際に話したり、お店で使う器を作ったりすることで勉強になる」という。実際に「鮨 くら竹」には川崎さんが作った器がいくつも使われている。

2つ目は「外へ働きに出ることが困難な方への仕事の提供」だ。子育て中のお母さんや体の不自由な方、自閉症の方に陶芸の絵付けなどの技術を身に着けてもらい、作品を販売することで収入を得られるようにする。工房で少し練習をしてもらえば、あとは家で「在宅ワーク」として作業ができる。そういったことをLabo白菊でやっていきたいという。

 

 

wonderspace事務所内にあるギャラリー。在宅ワークで作られた作品も展示されている。

 

Labo白菊内のそれぞれのお店に関しては「みんな芯をしっかり持っているから、自分の仕事をしっかりしていけば、絶対楽しい空間になる」と川崎さん。オリジナリティで勝負できる粋な男と女が集まったというイメージが浮かんだ。それぞれが自分の仕事をしっかりやり、互いにさらに進化していけば、近い将来、面白い化学反応が見られそうだ。

1人1人のお客さんとじっくり向き合ってくれるお店ばかりなので、ゆっくりと楽しみたい方におすすめのスポットだ。

 

 

 

 

※価格はすべて税抜

 

取材日時 20191010

 

取材・文 岡崎真由美

 

 

 

店舗情報

店舗名 Labo白菊
住所 金沢市白菊町3-25
電話番号 鮨 くら竹:076-220-6228 / Bar 露草:080-4259-7758 / 陶芸工房いろどりや:076-227-9889
営業時間 鮨 くら竹 12:00~14:00、17:00~22:00 / Bar 露草 月・水・木・金17:00~24:00、土・日・祝日12:00~24:00 / 陶芸工房いろどりや 10:00~16:00
定休日 鮨 くら竹:火曜 / Bar 露草:火曜 / 陶芸工房いろどりや:月曜、火曜