趣のある金澤町屋で新たな感性をプラスした懐石コースが味わえる日本料理店「金澤つきや」

片町スクランブル交差点から徒歩3分、金沢市大工町にある日本料理店「金澤つきや」。明治期前半に建てられた金澤町屋を復旧した建物は、オリエンタルな要素も取り入れた趣のある空間。日本料理(加賀料理・懐石料理)の伝統を忘れるわけではなく、新しい食材の組み合わせや調理方法、感性を加えることで新たな日本料理を提案。味覚だけでなく、視覚や香りでも楽しませてくれる。料理、もてなしともに客を思いやる心が感じられ、温かみのある雰囲気も魅力だ。

蔵を利用した完全個室テーブル席。

 

 

 

金澤町屋×オリエンタルが生み出すノスタルジックな癒しの空間。蔵を利用した完全個室も

ビルが建ち並ぶ片町から程近い大工町の小路に入ったところにある「金澤つきや」。この界隈に茶屋街で見かける町屋があることに驚く。建物は元々こちらに建っていたものだそうだ。「金澤つきや」を運営しているマーク株式会社の岩﨑裕樹さんに話を伺った。

「建物は、母屋と土蔵の二つからなる明治期前半頃の建築と推測される金澤町屋を復旧し、格子や蔵をはじめ歴史的な建造物はあくまでも修復にとどめました。暖簾にも描かれていますが、懸魚(げきょ)をアイコンにしていることもあり、内装に関しては中国の古典的な要素も取り入れて和に偏り過ぎないオリエンタル(中国建築)なエッセンスも少々織り込みました」。

たしかに和風でありながら、どこかノスタルジックで癒しを感じる空間になっている。

異素材のものや新旧のものを組み合わせることによって、新しい魅力を生み出す。「金澤つきや」ではこれが空間づくりや料理の1つのテーマになっている。

栃の一枚板のカウンター席は7席。調理の様子を見ながら出来立ての料理が味わえ、デートにもおすすめだ。テーブル席(8席)もある。

 

「カウンター席は炭火で焼く魚の爆ぜる音やご飯が炊ける香りなども楽しめて、じっくり料理を味わえる特等席。お客様には料理のストーリーを楽しんでほしいと、心をこめて調理し、最適なタイミングで提供いたします。カウンター越しに食材や料理の説明もさせていただきます」と料理長の野尻貴裕さん。

 

 

蔵を利用した完全個室のテーブル席(6席)もある。家族や友人との食事会や忘新年会にも。

 

 

 

料理長自らが厳選した地元食材を贅沢に使用、新しい日本料理の数々が味わえる懐石コース

「金澤つきや」は完全予約制でコース料理のみ(8,000円と12,000円)を提供している。

一皿一皿丁寧に心を込めて作られたコースは、石川の美味しい日本酒とともに、旬のものや地元食材を少しずつ頂けると好評だ。

料理長の技とこだわり、新たな感性をプラスした日本料理は、味覚だけでなく視覚や香りでも楽しませてくれる。

「能登半島・珠洲の鮮魚店から送ってもらう魚のほか、料理長が近江町市場に赴き、地物を中心に鮮度や質の良い魚や野菜だけを目利きして仕入れています。お酒も地産地消を意識して、日本酒は石川県の地酒のみをセレクトしています」と岩﨑さん。

器にもこだわり、石川県の伝統工芸品でもある九谷焼や輪島塗、さらにアンティークのガラス皿などを多彩に使用。さらに、地元の現代作家による斬新なデザインの磁器なども使い、古さと新しさの融合も楽しめる。

料理を引き立てるこだわりの器。目でも楽しませてくれる。

 

冬のコースメニューの一例を挙げると、香箱ガニ、鰤の刺身、松茸の土瓶蒸し、かぶら蒸し、合鴨の治部煮、茸の土鍋ご飯など。冬の石川でおさえておきたいものばかりだ。

お椀に使う一番だしは、金沢の美味しい水に北海道の昆布と九州の鰹節をたっぷり惜しみなく使用。なるべく直前に引き、香りを逃がさないようにしている。

 

季節の魚や能登牛を備長炭で丁寧に焼いている。

 

石川の代表的な郷土料理「合鴨の治部煮」。

 

「合鴨の治部煮」の鴨肉は絶妙な火加減で火を入れているので、しっとりとした食感と濃厚なうまみを堪能できる。野菜は地物を中心に使い、丁寧に下ごしらえをして鴨肉と合わせ、オーソドックスな味付けで仕上げている。

 

 

石川の冬の味覚・香箱ガニを使った「香箱ガニのキャビアジュレがけ」。色鮮やかで見た目も華やか。

 

茸の食感や豊かな香りが楽しめる茸の土鍋ご飯。

 

土鍋ご飯は、特別米のコシヒカリをコースの途中で炊き始め、炊きたてで提供。お米の甘さや香りを存分に堪能できる。とくに人気なのは、炭火でこんがり焼いたうなぎを、しょうがの炊き込みご飯に乗せたご飯だそう。

 

 

また、土鍋ご飯や炭火焼はカウンターの中央に堂々とたたずむ「おくどさん」で調理される。「おくどさん」とは、煮炊きを行う設備のことだ。土台の部分は日本建築の古典的な手法「大津壁」で作成。客の目の前で米を炊いたり、焼き物を焼くので香りや音などで五感を刺激される。

料理長の野尻貴裕さん。料理の際に心掛けていることは「素材の持ち味を生かした調理法や味付けにすること」「地物の旬のものを使うこと」「思いやりの心」。カウンター中央にあるのが「おくどさん」。

 

 

 

こだわりの石川の食材を使った季節の料理を通じて、五感で四季を愉しんでほしい

「地元の日本酒とともに、丁寧に仕込まれた地物の旬のものを少しずつ頂ける」「こだわりの器や空間、内装も素敵」と訪れる客を魅了している「金澤つきや」。

また「雰囲気がいい」という声が多く聞かれる。これは、料理長の野尻さんをはじめ、スタッフの方々の「思いやりの心」によるものだろう。「歯の悪い母のために細かく包丁を入れて下さり、家族みんなで美味しくいただけた」「食材などの質問にも丁寧に答えていただいた」というエピソードが見られた。こうした温かみのある雰囲気もまた「金澤つきや」の魅力だ。

「石川には、こだわりの生産者が情熱を込めて作る素晴らしい食材がたくさんあります。その里山・里海ではぐくまれた食材を使い、金沢の伝統料理に新たな感性をプラスして提供いたします。季節のお料理を通じて、五感で四季をお愉しみください」と岩﨑さん。

新旧の対比から生まれる癒しの空間で、旬の美味しいものが味わえる「金澤つきや」。季節ごとに訪れるのが楽しみになる店だ。

 

 

 

 

※価格はすべて税抜

 

取材日時 20201021

 

取材・文 岡崎真由美

店舗情報

店舗名 金澤つきや
住所 金沢市大工町38番地
電話番号 076-208-3217
営業時間 17:30~22:30
定休日 日曜日・第一月曜日