器まで味わう伝統工芸体験型レストラン『CRAFEAT(クラフィート)』

10代続く輪島塗の塗師屋がプロデュースする現代和食レストランが2021年7月、木倉町にオープン。木倉町広場を眼前にする静かな場所で、地元産の厳選素材を、輪島塗をはじめとした美しい器で堪能できる店だ。

地元の人にこそ知ってもらいたい石川の良さ

輪島塗は、完成までに124もの工程があるという。工程ごとに専門の職人がいて、それぞれの仕事を全うする。これらの工程を管理し、漆塗りの製品を製造・販売するのが「塗師屋(ぬしや)」だ。いわば漆塗りのプロデューサー。

クラフィートを運営する田谷漆器店は、1818年の創業から200余年の老舗塗師屋だ。

店内は、1階と2階にそれぞれ席があり、1階はカジュアルな和食バル。おすすめは年間を通して食べられる『進化系おでん』。石川県産ソーセージとレタス(580)、モッツァレラチーズと岩のり(580)、おでん出汁の梅茶漬け(580)など、おでんの本場金沢でも見たことがないようなメニューが季節変わりで並ぶ。

器が変わると、いつも食べているおでんもワンランクアップして見える不思議

 

 

2階は完全予約制の会員制レストランになっている(年会費1万円。20227月現在、期間限定で会員以外でも利用できる「ビジタープラン」を実施中)

料理人の奥村仁さんが目利きした海の幸や、直接生産者のもとに出向いて選び抜いた加賀野菜など厳選素材を使って作られる現代和食(8,800円、ビジターは11,000)は、おいしいのはもちろん、一言でいえば「型にはまらない驚きのある料理」。スペシャリティは漆塗りの重箱で提供される『のどぐろのお刺身 玉手箱造り』。蓋を開けると、立ち上るのは加賀棒茶の燻煙。美しく盛り付けられた刺し身を口に運べば、とろりと蕩ける甘みと香ばしい香りが心地よく口から鼻に抜ける。

美しい盛り付けと立ち上る燻煙が食欲をそそる

 

 

「最近は、観光客向けのイメージが強くなってしまったのどぐろは、地元の方は敬遠する傾向にあるように感じたのがこのメニューを作ったきっかけです。産地だからこそ食べられる、本当においしいのどぐろをイメージだけで食べないのはもったいないと思うんです」。そう話す奥村さんは県外の出身。だからこそ、地元の人が当たり前に思って見過ごしてしまっている良さを知ってもらいたいという。

料理と器が互い引き立て合う盛り付けは目にもごちそう

 

 

 

伝統工芸体験型レストランとは?

奥村さんのいう「地元の人にこそ良さを知ってもらいたい」は、実はクラフィートのコンセプトそのもの。

そもそもクラフィートという店名は『CRAFT』と『EAT』をかけ合わせた造語。ここは、単においしい料理が食べられる店ではなく、食事という行為を通して輪島塗をはじめ、山中漆器や九谷焼など、石川県が誇る伝統工芸品の良さを体感するためのアンテナショップでもあるのだ。

カウンター正面に整然と並ぶ輪島塗の器はすべて料理に使われる。気に入ったものは購入も可能。

 

 

料理を盛り付ける器はすべて県内の伝統工芸品。懐石に使われる器の中には一150万円の蓋碗があったり、おでんを載せた皿が5万円だったりするのだという。

そもそものきっかけは、田谷漆器店10代目でありクラフィートのオーナーである田谷昂大さんの輪島塗が日常で使われなくなっていく現状への憂い。世界一堅牢な漆器と言われる輪島塗は、生地にも塗装にも化学物質が使われていないこと、保温・保冷性の高さ、口当たりの良さなど、いいところがたくさんあるにもかかわらず、高級で高額な工芸品としての側面ばかりがピックアップされて、日常的には使いづらいと思われがちだ。

「熱いものは大丈夫か」「油ものには使えるのか」「洗い方や手入れの方法」など、世代を問わず多くの人から尋ねられるうち「実際に使ってもらえる場所があればいいのではないか」と思うようになったのだという。

全面に蒔絵が施された蓋碗。こうした器に触れられるのもクラフィートならではの醍醐味

 

 

「ショールームでは、手にとってもらうことはできても口を当ててもらうことはできませんから」というのが、田谷さんがクラフィートをプロデュースするスタートになった。

手に取るだけでなく、食事を通して使い心地や口当たりを体験してもらう、日常の手入れや注意することなどもていねいに教えてもらえる。だからクラフィートは『伝統工芸体験型レストラン』なのだ。

「輪島塗は世界で一番、高級で高額な漆器と言われますが、とても丈夫で直しも可能だから50年、100年と使うことができるので、実はとてもコスパがいい器」と、田谷さんはいう。「それでいて、高級感や使い心地の良さを毎日味わえるところも素晴らしい」と。器を見つめる瞳も輪島塗愛にあふれている。

 

 

 

伝統工芸体験はご家庭でも

田谷漆器店では、クラフィートを通して伝統工芸品に触れられるだけでなく、輪島塗のサブスクリプションも展開している。

月に一度、輪島塗の「福袋」が届く『美しい日々』プランの器個人向けコース(月額11,000)は、月510点の輪島塗の器が届く。

このプランには器飲食店向けコース(510/月額11,000)やアクセサリーコース(3/月額3,000)もある。

次の月には別のものと入れ替えられ、使用中に破損しても追加費用がかからないというもの。気に入ったものがあれば、そのまま購入することも可能だ。

プランはもう一つ。

世界初! 輪島塗のサブスクリプションで届く品々の一例

 

『ハレの日』プランだ。

こちらは、節句のお祝いや特別な日を華やかに彩るための単発プランで、レンタル期間は2周間。祝い事の内容に合わせた器や装飾品が届けられる。

現在は、田や漆器店で扱う輪島塗が対象だが、今後は他の伝統工芸品に広げる予定もあるという。

 

おいしいものを食べながら『伝統工芸体験』ができるクラフィートで、石川県の良さを再発見してはいかが。

 

 

 ホームページ  https://crafeat.wajimanuri.co.jp/

インスタグラム  https://www.instagram.com/crafeat/

 

 

 

※価格はすべて税込み

 

取材日時 20227730

 

取材・文 小杉智美

 

 

店舗情報

店舗名 CRAFEAT(クラフィート)
住所 金沢市木倉町5-2
電話番号 090-4740-4177
営業時間 クラフトショップ:13:00〜23:00(レストラン:17:00〜23:00)
定休日 月曜日(月曜祝日の場合は翌火曜日)